エッセイ優秀賞 |
「お父さん、ひまわりの花が咲いたよ」と一番先に知らせに行き、父の背よりも高くそびえるように咲いたひまわりの花を、二人で眺めては、今年のひまわりの花の出来ばえについて、あれこれと話をするはずでした。 でも今年は心の中で「お父さん、去年のひまわりの種から、こんなに大きな花が咲いたよ。見えますか」と話しかけた。 私が中学二年生の冬の日のことでした。二階の父の部屋から私を呼ぶ父の声がした。部屋をのぞくと、父は「お母さん呼んで」と言った。母と二人で父の部屋に入って行くと、父は大量の血を吐いていた。驚いている母と私に、「心配しなくてもいいから、大丈夫だから」といつもの優しい顔で言ってくれた。 そして一週間後。 「一緒に歩いて帰りたかったね」と父を抱きしめながら泣きじゃくっている母の側で、私も父の手を握りしめながら泣いていた。 中学三年となって、高校進学のこと、そして大学進学と、自分の進む道を考えた時、まだまだ一人立ちをして、自分の力で生活していくにはお金の面で、多くの負担を母にかけるのではという気持ちが私の心を不安で一杯にした。すると母は「お父さんは、もしもの時のために、ちゃんと智子のために保険に入っててくれたから、自分の進みたい道に進んでいいから」と言ってくれた。父の残してくれた大きな愛と共に、未来に向かって進みたい。 |
審査員・市川森一 |