エッセイ優秀賞


1998年エッセイ・優秀賞

『父の愛』

東京都 向野千代美さん
25歳(パート)


  私は父が40才の時、父と母の初めての子供としてうまれた。しかし私が生後3月の時、父は仕事中の事故で他界した。私は写真の父しかしらない。
 父のことを一つでも多く知りかった私は、父を知る人にいろいろ父の話を聞かせてもらった。父が私を大切に思ってくれていたことは、その人達の話や、父がとってくれたたくさんの写真、そして私がうまれて2週間めに契約している「こども保険」でわかる。
 私の為に加入してくれたのだ。私は“祝金”という形で節目には父が残してくれたお金をうけとった。 そのお金のおかげでどうしても行きたかった私立の高校にも通うことができた。
 高校卒業と同時に結婚した私に、まるで父からの結婚祝いのように18才の祝金。父が祝福してくれているようでうれしかった。22才で満期を迎え、何だか父とのつながりが一つなくなってしまって淋しかった。たった3月しか一緒にいられなかったけど、たくさんの愛情をもらっていた証拠の一つがこの保険だった。証券の父の力強い字をみつめ、何度感謝したかわからない。
 私も2児の母になり、子供の為に主人の保険をかきかえ、『こども保険』にも加入した。父もきっとこんな気持ちで加入してくれたのだろうと思いながら...。もうすぐ父の25回めの命日がくる。故郷を離れ、なかなかお墓参りにもいけない悪い娘だけれど、ずっと見守っていてね。
 父さん、私を愛してくれてありがとう!

寸評

審査員・市川森一
 死んでいく親が、残していく子の幸せを願って、せめてもの思いで託した「こども保険」。その親心をきちんと受けとめて誠実に人生を歩いていく千代美さんに、心からのエールを送りたくなりました。
 「証券の父の力強い字をみつめ、何度、感謝したかわからない」と言う千代美さんの思いがよく分かります。