エッセイ入選


1998年エッセイ・入選

『生きるための保険』

熊本県 原口隆史さん
31歳 (インターネット広告業)


  結婚して丸一年がたった頃、旅先でプールに飛び込んだ僕は首の骨を折ったのだった。意識を失い病院に担ぎ込まれ、目を醒ました僕に妻が言った。「おめでとう。パパ」妻から妊娠を告げられたのだ。「早く元気になってね」
 妻と我が子の誕生を糧に職場復帰を目指していた僕に、「二度と歩けません」という医者の言葉はあまりにも残酷すぎるものであった。
 しかし、僕は父親なのだ。負けてはいられない。 車椅子での退院が決まったある日、会社の上司が病院に来てくれた。「解雇の宣告」である。長い入院生活の中で、それは死の宣告の様にも思えた。
 しかし、生命保険が家族を絶望の淵から救い出してくれた。僕は、受け取った保険金を元に新しく事業を起こす事にした。まさしく「生きていく為の資金」なのだ。
 子供が生まれ、すくすくと育つ姿に微笑む事が出来るのは、万一の為に、と入ったこの時の保険のお陰である。今、僕達三人家族は、多くの出会いに助けられながら、新たな人生を見い出し生きているのだ。
 もし僕に、人に教えてあげられる事があるとすれば、人生の設計に保険を欠かすべきではない、という事だ。「生きるための保険」があったからこそ、家族の笑顔に囲まれて笑い、今、まさに生きているのだ。
 人は保険で強くなれる。たとえ身体は動かずとも。これも一つの真実である。