エッセイ入選


1999年エッセイ・入選

『新米ママ、開眼す』

神奈川県 近藤しづ子さん
41歳 (会社員)


  私が夫と結婚したのは三年前で、その時彼には四歳の息子がいた。他人の子を育てる事の難しさを説く周囲に反発し 「他人の子供だなんて思わない。自分の子供だと思って育てる」と宣言して結婚生活が始まった。
 初めて「ママ」と呼ばれたときは大感激だったが、子育ては思っていた以上に大変で、泣いている息子の側で、自分も泣きたくなるような事がしばしばあった。
 そんなある日、「今日、これを契約したよ」と言って、夫が差し出したのは、生命保険の申込書。それまで、保険には興味がなさそうだったので「どうして」と説くと「僕はまだ若いつもりだけど、人生何があるか分からないからね。万一の事があっても、息子の事は君が立派に育ててくれるだろうって安心してる。だけど、それはとても大変なことだし、君にも支えになるものが必要だろう」と照れくさそうに笑って答えた。
 夫が私を信頼してくれていると分かって嬉しいと同時に、子供の将来を守らなくてはならない親の責任を再認識した瞬間だった。
 私はまだまだ未熟な母親だけど、あれから、少し肩の力を抜いて子育てに取り組めるようになったと思う。子育ては長い時間のかかるものだし、しっかりとした支えもあるんだって分かったから。