エッセイ優秀賞


2001年エッセイ・優秀賞

『私の中の保険』

埼玉県 岡澤玲美さん
16歳(学生)


   「まぁ、保険のようなものだ」 という言葉がよく使われる。
 無駄にするかも知れないが、もしもの時のために「とりあえず」という意味に使われていることが多いらしい。
 私もこの春、高校受験の時、ある私立高校を一つ、「保険のつもり」で受けている。  合格したが行くつもりはまったくなかった。両親にもなかったと思う。不思議なことに、その学校にもなかったように思える。 では、なぜ受けたのか?
 「第一志望に弾みをつけるため?」
 「弓のつるをいっぱいに張ったような緊張感を和らげるため?」
 今、改めて考えても何のためだったかよくわからない。成りゆきで、その「保険」をかけたのだろうとしか思えない。
 しかし、改めて、「保険」というものに向き合ったとき、言葉どおりの安易なものなのだろうかと考えさせられる。
 私の両親も、いろんな保険に加入している。親たち個々のため、不慮の事故の相手のため、そして、私たち子どものため。
 これらは、「……ようなもの」のように軽いものではなく、個々の目的と使命を持った重要なものではないかと思える。
 ただ、両親の生命保険に関しては、いつまでも
「まぁ、保険のようなものだ」 であってほしい。

寸評

審査員・市川森一
  十六歳の少女にとって、生命保険なんて、どんな風に映っているのだろう。そんな大人の疑問に素直に答えてくれたようなエッセイ。日常のなんでもない言葉のフレーズにひっかかって、納得する感性がなんとも瑞々しい。