エッセイ入選


2001年エッセイ・入選

『最後の贈り物』

新潟県 橋立英樹さん
34歳(大学職員)

  義母は、女傑そのものでした。私の妻を女手ひとつで育て、家を構えて自身の兄妹を養い、妻との結婚を願い出た私を殴り、口が悪くて短気でけんかっ早い、豪快な人でした。そんな義母が癌に罹り、あっけなく亡くなったのは五年前でした。
 「生命保険なんて阿呆らしい。死んでから金もらってどうするんね」
 妊娠中の妻に向かって、「初孫の顔が早く見たいから、お医者に言って腹割ってもらいな」
 義母は最期の病床でも相変わらず憎まれ口ばかりたたいたものでした。
 義母が亡くなり、葬式が済みしばらくすると、義母の妹さんが訪ねてきました。
 「これ、お姉さんから預かっていたの」 妹さんが差し出したのは、みかん用ダンボール箱と古い茶封筒でした。
 ダンボールの中には手縫いのおむつと赤ちゃん用の布団が入っていました。茶封筒の中には二通の保険証券が入っていて、受取人はそれぞれ妻と義母の妹さんになっていました。妹さんは、「これいつの間に縫ったんだろうね。そして保険なんか入ってるって一言もなかったのにねぇ」 そう言って涙を流しました。
 あきれるほど照れ屋で、馬鹿馬鹿しいほど面倒見がいい義母は、こんな形で私たちに最後の贈り物をしたのです。 私たち夫婦もおむつを握りしめて大声で泣きました。
 その後生まれた長女は五歳になりました。元気に育っています。笑った顔が少し義母に似ているようです。