エッセイ入選


2002年エッセイ・入選

『もう二年…そしてあと二年』

山口県 古川芳枝さん
48歳(主婦)

 「もう少し、眠ってもいいか」と言って、二度と目をさますことなく、夏の暑い日、私たちに何も言わないで、一人静かに夫は旅立っていきました。
 十七歳と十九歳の子どもと、そして、一人では何もできない私を残して。最後にいっぱいいっぱい話したかった。
 生命保険はあまり好きではなかった夫でしたが、二人の子が自立してちゃんと生きていけるように、そして一人になっても私が苦労しない程度に生きていけるようにとそれなりの保険金を残してくれました。
 あれから二年、下の子は高校を卒業し短大へ進み、上の子は大学四年になりました。命日や報告したいことがある時は、二人とも線香をたてて、手を合わせています。
 私たちの声、届いていますか。
 娘は修学旅行にあなたがもう一度行きたいといっていたハワイへ写真を持って行き、息子は成人式にあなたのスーツを着て行きました。頼りない私は、あなたの分まですることがたくさんあるので、一生懸命生きています。
 あと二年、子どもたちは自立して巣立って行くことでしょう。
 あなたが残してくれた分で、苦労はしていません。たくさんの思い出と勇気……本当にありがとう。