エッセイ入選


1994年エッセイ・入選

『命の値段』

滋賀県 竹内早苗さん
21歳 (主婦)

 私の主人はトラックドライバーというとても危険な仕事をしています。毎晩毎晩「腰が痛むから押してくれる?」と笑って言います。「二十四ぐらいでこんなんじゃダメやなぁ。」と。 私はそんな主人をとてもいとおしく思います。 私にとっても二人の子供にとっても主人はとてもかけがいのない存在なのです。
 「もう少し大きな保険に入ろうか?」 突然主人が言い出したのはつい最近のこと、「仕事中にもしものことがあったらお前も子供も困るから。」と案内書も見せてくれました。保険金と主人のことを考えると保険金が主人の値段とさえ思えて、言葉にならない悲しいものがこみあげてきました。そんな私の気持ちが伝わったのか、「安心しながら仕事がしたい。もしもの時、何もできないからせめて保険金だけでも家族に、て思う男の愛情も分って欲しい。」と私の頭をなでてくれました。そんな主人を見て、私は主人が毎日どんな気持ちでトラックドライバーという危険な仕事をしているのかが、少し分ったような気がします。その後、夫婦そろって保険の契約も済ませて来ました。契約書を手にした主人は、今までよりも少しやわらかい笑顔で「満期になったら二人で楽しい老後が送れるね、どこか旅行へ行こうか? わがまま聞いてくれてありがとう。」と言ってくれました。今では主人の言葉を信じて、家族四人が幸せに暮らしていけたらいいなぁと思っています。 「行ってらっしゃい。」と言いながら。