エッセイ優秀賞


1994年エッセイ・優秀賞

『生命保険への思い入れ』
―始めに人生設計ありき―

奈良県 清水香子
 27歳 (公務員)


  年末調整の時期になると、職務上、三十名余りの保険関係の書類に目を通す。生命保険に一件も加入していない人は皆無である。しかし、その加入の仕方に、首をかしげることがたびたびある。尋ねてみると、いつ入ったかも、どんな時にどれだけの保険金が受け取れるかも知らない。知り合いに頼まれて、とか、毎日来る勧誘に根負けして、とかの理由で、中身もよく見ずに入っているのだ。職務の範囲を超えていると知りつつも、「保険って、そんなものじゃないでしよ。」と言いたくなる。
 私は生命保険が好きだ。そして保険とは、その人の、その家庭の、人生設計そのものだと思っている。家族全員のライフシミュレーション表を作れば、万一のための保障を厚くするべき期間が見えてくる。終身保障や終身年金の選び方は、どんな老後を送りたいかによって異なるし、子ども保険に入る前には、わが子をどんな人間に育てたいか、またそのための親としての責任を、どこまで負うかの青写真が必要である。
 始めに人生設計ありき。そして「誰かに言われた」のではなく、「わが家が必要とする」保険を選ぶのでなくして、生命保険になんの意味があろうか。そんな思い入れのもとに加入した保険が、わが家には六件ある。その一つ一つに、私は愛着すら感じている。それらを見てもらえばあるいは、わが家の夢までも知っていただくことができるかもしれない。

寸評
審査員・嵐山光三郎
 生命保険を「その家庭の人生設計そのものだ」ととらえる視点がいい。生命保険への加入の仕方によって、その人の生活哲学が見える。職務上、年末調整の書類を見ながら、清水さんは「う-む」と考えたんでしょうね。