エッセイ入選


1995年エッセイ・入選

『結婚10周年に欲しいもの』

滋賀県 布施京子さん
31歳 (主婦)

 一家の大黒柱が倒れたら。 たぶん、いやきっと私が大黒柱にはなれなくても中黒柱ぐらいで家族を支えていくことになるだろう。まだ30代になったばかりで、世の中にはまだまだ独身の男が溢れており、美人で賢く買い物上手な私なら、たとえ子持ちでも再婚の可能性は大である(もしかすると人は私のことをホラフキ女と言っているかも知れない)。
 しかし、私には夫以外の人と一緒になる気はない。休みには料理を作ってくれるし、掃除の手抜きをしても一向に気付かない。カッターシャツだってアイロンで伸ばしたのだかシワを作ったのだか判らないのを着ていく。たまにトイレの掃除をしていると、「お前は偉いなー」と妙に感心してくれる。こんな良く出来た夫はそういない(だろう)。夫に万一のことがあれば私は父親としても子供に接しなければならない。もちろん、金銭的な面は絶大である。小学、中学、高校。いければ大学。出来れば結婚。お金と根性があれば何でも手に入る。命と愛情は例外だけど。
 もうすぐ結婚10周年。
夫が、「記念品か、二人で旅行でもよいぞ」と言った。私はかを聞かずに言った。 「真珠の指輪と北海道の雪祭。それと私のために保険金を上げてね」と。有り難う、有り難うと頭を下げる私に夫は何も言わなかった(頭を下げるのが足りなかったのだろうか)。