エッセイ入選


1996年エッセイ・入選

『「信頼」友人と私の場合』

群馬県 轟木信也さん
42歳 (小学校教員)

 「信頼」保険に加入する場合、一番大事なのは、これだ。勧誘員の話が、あまりにもうま過ぎたりすると、かえって信じられなくなるという体験をした人もいるだろう。それは、巧みな話の中に信頼が感じられないからだ。
 高校時代の友人のYは、保険会社の代理店をしている。彼を通して、私だけでなく家族も生命保険に入っている。実は、その保険に入ったのは、数年前のことだ。保険嫌いの妻が、彼が勧誘にきても首を縦に振らなかったのだ。私も、同級生というしがらみがあったものの、たまに勧誘に来る彼が時折鬱陶しく思えたものだ。それが一変したのは…。
 5年程前のクリスマスの頃。家族と買い物に町に出た。そこで、身体に障害のある人達が買い物をしているのに出くわした。その世話をしている人達の中に見慣れたYの顔があった。彼の奥さんも一緒だった。子供のいない彼等は、休みの日には近くの施設でボランティアをしているのだそうだ。もう、6年していると、ちょっと、照れくさそうに話してくれた。
 保険業という仕事に就きながら、ボランティアにも心をくだく彼の生き方に心を動かされた。そして、彼に対する大きな信頼感が生まれるのが分かった。妻も、何か感じるものがあったようだった。
 私の家族が彼の勧める保険に入ったのは、それから数日後のことである。