エッセイ入選


1996年エッセイ・入選

『嬉しかよ!』

京都府 笹谷豊子さん
43歳 (主婦)

 日曜日の昼下り、主人の本箱をそうじしていると、何やら黒いビニ一ル袋を発見!
何かしら? と不思議に思い、手に取って中を見ると、何とほこりだらけ、その上、黄ばんだカビくさい古い古い週刊誌。
よく見るとニ十年前のもの。
 きっと捨て忘れていたのだと思い、私はそれをゴミ箱にポイッ。
 ところが、その夜、
「あっ!あっ!ない、ない」と、大騒ぎ。
私は驚いて、読む気だったのかと聞くと
、「アホ!ニ十年前、保険のおばちゃんに、新婚旅行に連れて行ってやれんことを話したら
、『そりゃ、連れていかにゃなア』とニ十年満期の生命保険を勧めてくれて…罪ほろぼしの為に掛けとったんじゃ。あの中にその生命保険証券をはさんでいたんや…:やっと、連れて行ってやれる…」と、主人。
  生命保険を掛けながら、主人は、きっとこの日を夢見ていたに違いない。
  そう思うと私は感謝の言葉より先に涙がポロポロと落ちてきた。
なぜか幸せな気分になりました。
 中年離婚、別居生活…何もかも変わってしまう世の中で、うす汚れて古ぎたない生命保険証券だけが白く光ってみえました。 それは、言葉を越えて伝わる主人の愛だったのです。