エッセイ入選


1996年エッセイ・入選

『もう一人のナース』

大阪府 福本律子さん
51歳 (事務員)

 「リーン」と電話のベルが鳴ったのは六月ニ十三日の夕方、夕陽も沈んだ時刻に、元気のいい女の子の声が院長の声に変り、子宮癌の再検査をする必要があるとのこと。「ハイわかりました」と答えるのが精いっぱいで、突然の大事故にあったというか大気が変った様でした。
 ちょうど一ヶ月後の七月二十三日に、子宮癌の為に入院し手術を目前にしています。一人暮しの私は愛犬をあずけることと、入院費のことが、早速クリアしなければいけない問題であり、現実は現実として受けとめました。私も頑張るからお前も頑張れよと愛犬に言い聞かせる日々、以前から知り合いのペットホテルに頼みました。
 いよいよ生命保険会社に連絡をすると、「こういう時の為ですので大丈夫ですよ」。ああ助かったと思いました。生命保険は癌を告知された人間に、勇気を与えバックアップをしてくれるもので、健康な時には予想もしなかったことでした。
 あるサークル活動の一員に保険営業職員の人がいて、癌保険にも加入しました。おかげで心おきなく手術が受けられるのです。ともすれば保険はもう結構ですよと断るのに、よくぞ加入していたものと自分をほめてやりたい位です。
 癌宣告にこわくて愛犬を抱きしめて涙した夜もあったけれど、勇気を出して手術を明日午後に受けます。信頼できる人々にめぐりあえた事は、不幸中の幸だったと感謝します。退院できるよう頑張って一日も早く病院の窓口に保険会社の用紙を出せますように。