エッセイ入選


1997年エッセイ・入選

『長生きしよう』

神奈川県 両角貴美子さん
33歳 (主婦)


  働きながらの妊婦生活は結構ハードで、何度か入院したりしながらも九ヵ月迄頑張り、残り一ヵ月はのんびり出産の準備をしようとしていた矢先、主人の首のリンパに腫瘍が見つかった。野球で鍛えた頑丈な体で、何度も寝込む私を支えてくれた主人がまさか病気に罹るなんて思いもしなかった。それも悪性の腫瘍だったら最悪は…。と悪い方へばかり考えてしまい、毎日泣きはらす日々を過ごした。
 主人が検査のため入院するにあたり、「生命保険の証券を出しておいてくれ」と電話をしてきたので、私はこのお腹の中の子供とニ人で生きていくのかと、電話を切った後に泣き崩れた。検査を終えて帰宅した主人は、「結果次第では治療は長期戦になるから入院した場合の保障を調べたかった」と言ったのだ。今はリンパ腫も治療は長期に亘るが治ることが多いそうだ。そうだ彼は病気と戦おうとしている。保険は死んだ後ではなく、治療の為に使うものなのだと分かった。これから親になろうとしている私がこんなに弱くてどうする、私も一緒に戦わなくてはと決心したのだった。
 予定日より早く陣痛が来た夜、主人が検査の結果は腫瘍は良性だったという朗報を持ってきた。まだ要注意で月に一度の検査を受けなければならないが、ほっと胸をなで下ろしたその翌朝、元気な男の子を出産した。『二人で頑張って子供を育て、一緒に長生きしようね』と恥ずかしいから胸の中で誓った。