エッセイ入選


1997年エッセイ・入選

『むなしいけれど、必要なものかも?』

愛知県 兵藤芳子さん
44歳 (パート勤務)


  「私が死んだら、少しばかりの生命保険がおりるから、それで葬式を出してね。普通の葬式ぐらいはできると思うよ。
 遠くから来てくれる智子達に、新幹線のお金も出してやってね。新幹線で来るように、くれぐれも言ってよ。車で来ると、疲れて事故でも起こすと大変だから。
 それと、落ち着いてからでいいから、永平寺に納骨に行って欲しいなあ。死んだ父さんの骨もあるから、いっしょになりたいなあ。娘達三人の家族が行くぐらいの旅費も、保険のお金で足りると思うから。皆で行って、納骨してね」
 生前、母は、こんな話をするのが好きでした。
 「イヤなことを考えないでよ」
 と、私は笑って聞いていましたが、ニ年前に、現実の話になってしまいました。私と、姉二人の家族、合わせて十ニ人で永平寺に納骨に行き、近くの温泉で一泊しました。久し振りに姉達と旅行ができ、
  「有り難いわね」 と、私が言うと
  「そういう人なのよ…」 と、姉も言いました。