エッセイ入選


1998年エッセイ・入選

『弟の約束』


徳島県 北條啓子さん
47歳 (会社員)


  「母さんの面倒は、僕が一生見てあげるから…」と、口癖のように言っていた弟が、35歳で亡くなって7年過ぎました。4人兄弟の内3人は県外で結婚していたから、残った弟は、お母さんと同居してくれる人と結婚するとよく言っていた。しかし結婚相手に巡り会わないままの死でした。
 父が42歳で事故死してからは、母が自転車で40分かかる隣町まで勤めに行くことになった。農家で食べ物には困らなかったが、4人の子供を残されて母も苦労していた。寒い夜、弟が帰宅しないと探していると、よく近くの橋まで母を迎えに行っていた。その橋まで行くと、道路が一直線で、はるか遠くを帰ってくる母の姿が車のライトで照らされて見つけることができる。小6の弟は何も言わなかったが、少しでも早く母に会いたかったのだろう。苦労してる母を一番近くで見ていたのが弟だったかも。
 父が亡くなった30年も前は保険に入っていなかった。そのせいか、弟は卒業と同時に大きな保険に入った。そんな弟は母より先に父の居る天国へ行き、生きて面倒を見る約束を守らなかったが、自ら加入した保険金で天国から母の経済的な面倒を見ている。経済的な事は弟にまかせ、弟が話せなくなったので、私は声のサービスを一週間に一度必ずしている。
 透くん、残された三人で透くんが果たせなかった親孝行をして行くからね。