エッセイ入選


1998年エッセイ・入選

『愛のかたち』

香川県 高橋未央さん
48歳 (パート)


  犬の散歩から帰った息子が、「知らないおじさんから『加寿夫さんの子か?』 と言われたよ」 と言うくらい、ニ人の息子は夫に似ている。それを一番思っているのは、八年前亡くなった夫だろう。そして私も、最近つくづくそう思うようになってきた。なにしろ、初めて出会った「大学生の頃の夫」と、今の息子達が、あまりにも似ているからである。
 だから、息子達はよく言う。「父さんは俺達の中にいるから…」と。母親の私に心配かけたくないぶん、そう言っては自分自身を励ましてきたのだろうと思うと、強いところも父親似かな…と思ったりする。
 そんな彼等を支えてくれたものが、もう一つある。それは父親の亡くなった三月に支払われる生命保険の年金だった。進級進学の節目節目で、父親の変わらぬ愛情が、形となって注がれてきたのである。そして、ニ年後の最後の年金を受け取る春には、父親を奪った癌と闘うために長男は医師として社会人となる。
 出張・単身赴任…と家族と離れることの多かった夫は、息子達が小さい時から、「お前達は男の子なんだから、父さんの居ない間は頼んだぞ!」と口癖のように言っていた。私は、そんな冗談を…と笑っていたが、夫は十歳と十三歳の息子達に、この言葉を残すようにして、永遠の旅へと逝ってしまった。そして私は、確かに彼らに支えられてきたのである。夫の愛情とともに…。