エッセイ入選


1998年エッセイ・入選

『わかって下さい』

神奈川県 角美奈子さん
31歳 (自由業)


  「受取人の名義もおまえに変えたし、事故に遭っても安心だよな」
 そんな夫のいやみな台詞に「またか…・・」と聞こえないふりをした。悲しいかな、「好きあってても理解し合えないことってあるんだなぁ」としみじみ思った瞬間だ。
 新婚の私と彼。仲良しなのに"保険"の話題では必ずナーバスになる。結婚して半年も経つのに、名義変更手続きをしてくれない彼。せかす私。不快感をあらわに「女っていやだな。つれあいの死んだ後のことを冷静に考えてるなんて」と言われた。
 私の父は55才で他界している。医療の進むこのご時世なのに、肺炎でこの世を突然に去ったのだ。本人も不本意だったろう、でも残された家族の驚愕も計り知れない。肉親の死がどれほどのものかは、体験した人にしかわからない。5年たった今でも泣ける。
 コツコツと毎月多額の保険料を支払ってくれていた父。まさか自分が風邪で死ぬなんて考えてもみなかっただろうけど、その保険のおかげで残された母は気に生活しているよ。パパの愛した家族はちゃんと守られているよ。そう伝えたい。だから、私にとって"保険は愛情の証"という思いは、とても重たくて、とてもあたりまえな気持ちだったのだ。
 愛情の証を彼におしつけちゃったかな。それと言葉が足りなかった?
 「あなたが元気なのが一番!」そんなの言わなくてもわかってると思っていたんだけど。