1999年エッセイ・最優秀賞
『給料明細書』
千葉県 高森節子さん
49歳(栄養士)
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生命保険と名が付くものは嫌いで、若い時はもちろん、結婚して子どもが出来ても、入っているのはこども保険だけ。『何かあったら、その時はその時、なるようになるさ』と、うそぶいていた。
ところが、去年の冬、小六の次男の卒業も間近いある日、同級生のお父さんが交通事故に遭い、三日後に亡くなった。まだ四十代半ばで、子どもは中二を頭に三人。葬儀の席で、私よりずっと若い奥さんと子ども達の姿に、私は強いショックを受けた。
「生命保険に入ろうか」、その夜、帰宅した夫に言う。「何で又、嫌いじゃなかったのか?」「うん、そうなんだけど」「お前、俺の給料明細、振込額しか見たことないだろ」「ん?」、さっそく先月分の明細を見る。
所得税、地方税…そして○○掛金として、五ケタの割合大きい数字が記入されている。「これって…」「生命保険!」「えっ」「言っとくけど、お前の為じゃない、子ども達の為だから」「あっそう」「まあ、俺が入院や、悪くしてコロッといっても、しばらくはそれで生活できるだろう。そして気持ちの整理がついたら、お前はどっか働く所、見つけるんだなー」と、憎らしい事を言う。
後日、生命保険証券というのを見たら、受取人は息子達ではなく、この私になっていた。
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