エッセイ入選 |
結婚したら生命保険に入る。それが一人前の男のすることだ。友人、知人、親戚、両親からそう言われた。 でも、私の場合はそうできなかった。ニ十歳で結婚し、生活するのが精一杯だったからだ。 小さく古いアパートで、できるだけ無駄使いしないようにしても、給料前の数日間は、インスタントラーメンだけという暮らし。自分の生活力の無さに、いつも腑甲斐なさを感じていた。 それでも妻は、笑って我慢してくれた。そんな妻を幸せにしたいと心から願っていた。 結婚して十年後、三十歳になった時、やっと生命保険に入ることができた。一人前の男になれたのだ。 その時妻は、 「無理しなくていいのに」と笑った。 その妻の瞳は、潤んで光っていた。 |