エッセイ入選


1999年エッセイ・入選

『父の保険証券』

鳥取県 金山恵美さん
29歳 (会社員)


  晴れて私の大学進学が決定した合格発表の日の夜、父が一通の保険証券を見せてくれた。
 それは、私が二十歳になった時に満期を迎える内容の生命保険だった。
 「お前が生まれたとき、お父さんはほんに嬉しかったけどなぁ、この娘が成人するまで自分はまめでおられるかいなぁ(元気でいられるだろうか)、この娘を守ってやれるかいなぁと思って、それだけが心配で、こうして保険に入ったが、お蔭さんで、今日まで元気で、お前も大学に出しちゃれるだけんなぁ」
 それは初めて聞く話で、正直、父がそんな風に思っていた事が、私には意外だった。  私が生まれた時、既に四十八歳だった父は、確かに「おじいちゃんみたいなお父さん」だった。二人で歩いていると、よく「お孫さんですか?」と声をかけられたりもした。しかし、スポーツ万能で、器用に何でもこなす父は、どちらかといえば、パワフルなスーパーマンタイプで、「この人に弱点なんてあるのかしら?」と思うくらい頼もしい父だった。
 その父が、生まれたばかりの私を見て、ニ十年後の自分の姿をそんな風に想像していたのかと思うと、なんだか切ないような嬉しいような、複雑な思いがこみあげてきて、ちょっぴり涙が出た。と同時に「さすが親父殿、将来設計までぬかりなし!」と思ったら、やっぱり頼もしい父らしいわ、と納得した。
 現在七十七歳。いまだ衰えを知らぬ、我が親父殿である。