エッセイ入選 |
ニ十九歳、独身、女性。 朝、六時ニ十分起床。夕方七時三十分頃帰宅。 毎日毎日ほぼ同じことの繰り返し。 次の日がきついからと、夜遊びに出ることもめったになくなった。 自分が食べるだけのものはなんとか稼いでいる。守るべきものは自分自身、それ以外は何もない。 「この保険はいかがですか」 汗をびっしよりかきながらおば様方が職場にやって来る。左手には指に食い込みそうな結婚指輪。 「私が死んで、お金をもらわなければならない人なんて誰もいませんから」 笑いながら通り過ぎる。 そうか、私が死んでも誰も困らない、ということは誰にも必要とされていない、ということ?寂しさを笑顔でごまかす。 うーん、そろそろ自分以外の誰かの為に生きてみるのもいいかもしれない。結婚して、家庭を作って、子供を育てて…。なんて、今までは平凡な人生とばかにしていたけれど。 自分が守るべきものの為に必死で働いて、生きて、そしてもしもの時のために保険に入る。 うん、それも新しい人生だ。なんだか、一歩を踏み出す勇気がわいてきた |