エッセイ入選


1999年エッセイ・入選

『新しい一歩』

福岡県 平嶋 恵さん
29歳 (公務員)


  ニ十九歳、独身、女性。 朝、六時ニ十分起床。夕方七時三十分頃帰宅。 毎日毎日ほぼ同じことの繰り返し。 次の日がきついからと、夜遊びに出ることもめったになくなった。 自分が食べるだけのものはなんとか稼いでいる。守るべきものは自分自身、それ以外は何もない。
 「この保険はいかがですか」 汗をびっしよりかきながらおば様方が職場にやって来る。左手には指に食い込みそうな結婚指輪。
 「私が死んで、お金をもらわなければならない人なんて誰もいませんから」 笑いながら通り過ぎる。
 そうか、私が死んでも誰も困らない、ということは誰にも必要とされていない、ということ?寂しさを笑顔でごまかす。
 うーん、そろそろ自分以外の誰かの為に生きてみるのもいいかもしれない。結婚して、家庭を作って、子供を育てて…。なんて、今までは平凡な人生とばかにしていたけれど。
  自分が守るべきものの為に必死で働いて、生きて、そしてもしもの時のために保険に入る。
 うん、それも新しい人生だ。なんだか、一歩を踏み出す勇気がわいてきた