エッセイ入選


1999年エッセイ・入選

『尊いお金』

大分県 広末明代さん
51歳 (会社員)


  姉が保険会社に勤めていた関係で、15年くらい前、主人が生命保険に加入した。  その時、冗談で主人いわく「保険に入ると長生きするように、保険会社が祈ってくれるから安心なんだ」と…
 その祈りは届かなかった。
 平成5年、突然の病に倒れ、三ヶ月足らずであの人は、帰らぬ人となった。
 自分の手のひらで、中学に入学したばかりの末っ子の手を包むようにして、「勉強しよるか?大学に行けよ」と面会に来た帰り際には、いつもやさしいまなざしをして口ぐせのように言っていた。
 高校で進路を決める三者面談の時、家の事情を考えて悩んでいる息子の気持ちを知った。
 主人の保険金を受け取った時から、 「このお金で、息子を大学にやるんだ」と私の気持ちは決まっていた。
 「心配せんでいい。自分の志望する大学に行きよ」と預金の証書を見せた時、
 「尊いお金だネ」と息子がつぶやいた。
 今年の春、福岡の大学に入学した。
 「使わせてもらうけど、これでいいよネ」 主人の遺影に聞いてみた。
 笑っていた。