エッセイ入選


1999年エッセイ・入選

『母の贈物』

東京都 桑谷竹紫さん
50歳 (主婦)


  娘が三才になった時、実家の母から、生地を選んで縫った着物一式が送られて来た。それに添えて、私宛の封書も入っていた。
 「元気ですか。この度は紐落し(方言で七五三の事)おめでとう。気に入るかどうかわからないけど、着物一式作りましたので送ります。帯がなかなかいいでしょう。それからお金を同封しておきます。このお金は、貴女にかけてあった生命保険が満期になったのです。今の金額にすればわずかですが、ニ十年前にかけたものだから。無事に満期を迎えられた事を、心から喜んでいます。Kちゃん共々、御祝をして下さい。本当におめでとう」
  くずし字の美しい筆跡で、手紙と共に、新札の十万円が同封されていた。
 生命保険というと、私の脳裏にいつも、あの時のジーンと熱くなった記憶がよみがえる。
 母が亡くなってから五年。母が私にしてくれた事のなんと多い事か。気配りの足りない私は、いつも母から奪う事ばかりだった。母が亡くなって後、それがよくわかったのだ。
 そんな私が、たった一つ母への償いの為にも…と実行している事がある。娘の紐落しの時にかけ始めた生命保険。無事に満期を迎えられたら、あの時の母のように手紙を書いて、新札で娘に渡すつもりだ。
 あの時の十万円は、今でも私名義の貯金通帳の中で、私を見守ってくれている。