2000年エッセイ・最優秀賞
『こころ静かに』
鹿児島県 野村美子さん
45歳(主婦)
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与えられた命を営々と生き、その果てに結果として死があるなら、それは静かに受け容れたい、いや受け容れなければならないだろう。しかし死は往々にして突然である。息子は脳腫瘍で呆気なく死んだ。八才であった。兼好法師の言葉通り、死はうしろからやってきたのである。
その数年前、「ひとつの常識」といった程度の感覚で家族型の生命保険に入っていた。が、子どもの死によってもたらされた「死亡保険金」なるものは虚しかった。その時の私にとっては何の意味もなく、価値もなかった。親が子に残すならいい。逆はやりきれない。唇を噛みしめるばかりであった。
しかし時間はゆっくりと流れ、少しずつ私を立ち直らせた。考えを変えようと思うようになった。息子のお金は、私の周りで困っている人をわずかながら救うことができた。初めて喜びが生まれた。また、息子の通っていた小学校に贈らせて頂いた本は図書室の一角に並べられ、「あゆみ文庫」と名付けられた。息子の名を付けて下さったのは先生方全員の御心と知り、素直に有り難く御受けした。
あれから十年の歳月が流れたが、私はいつも心静かに息子と向かい合うことができる。息子が、私の選択をよろこんでいてくれると確信するからである。
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