エッセイ入選


2000年エッセイ・入賞

『生命保険の思い出』

岐阜県 五藤桂子さん
57歳 (主婦)

 生命保険というと今でも鮮明に思い出すのは、三十年以上も昔、大阪での新婚時代のときのことです。
 何気なく主人の持ち物を整理していた時、手にした一通の生命保険の証券。「もう、生命保険に入ってくれてたのか」と思うと、うれしい気分でした。でも受取人の名前を目にした時は、ガーンときました。義母の名前だったからです。
 その夜、
「もう結婚したんだから私の名前にしてよ」 とただすと、
「お前と結婚してまだ一ヵ月だ。親には二十数年育ててもらった恩がある。今の俺には親の方が大事だ」 と言う主人。
「私より親の方が大事とは…」 かっとした私は、翌日、黙って里の方へ帰ってしまいました。
 私の話を聞いた母は 「今日は泊めてはあげんよ。すぐ帰りなさい」 と、すごいけんまく、そして 「親を大事に思う人は、奥さんも大事にする人よ。そんな事も分からないの。いずれ子どもができたらきっと名前も変わっているから」
 それから数年後、長女が誕生したら…母の言った通りでした。私の名前に変わり、今、私を大事にもしてくれています。