エッセイ入選


2000年エッセイ・入選

『未来へのキップ』

愛知県 阿部和美さん
28歳 (インテリアコーディネーター)

 私がちょうど二十歳を迎えようとする二ヵ月ほど前に、突然母が亡くなりました。母一人で私と弟を育て、私の成人式のために買った振り袖に袖を通した姿をも見ることなく、早々と旅立ってしまいました。深い悲しみとこれから先どうしたらいいんだろうと途方に暮れる私と弟の前に数日後、保険会社の人が訪ねて来て、その時初めて母が苦しい家計をやりくりして私と弟それぞれを受取人にして保険をかけていてくれたことを知りました。
 その時私達は、切ない思いと母の大きな愛を改めて実感しました。私はしばらく考えた末、母が私のために残してくれたお金を何か成果として残したいと思い、母が生前応援していてくれた私の夢「海外留学」のために使おうと決めました。その後四年間働きながら英語を学び、アメリカの大学留学を成し遂げることができました。卒業後アメリカで仕事もし、本当にすばらしい経験が出来たと思います。
 大きなものを失ってくじけそうになった私が、悲しみをばねにして一回り大きくなれたのは、母が残してくれた未来への希望のおかげです。現在結婚を機に帰国した私ですが、今度産まれてくる子供のためにも必ず保険をかけようと思っています。保険はひとつの愛情を形に表したものであり、愛する人に残す「未来への切符」だということを知っているのは、なによりも私自身なのですから。