エッセイ優秀賞 |
「進行性の直腸癌です」と、いとも簡単な検査結果。 本人の私よりも青ざめた表情の主人。 こうなりゃあ、切り取ってもらうしかないじゃないの!と開き直った本人は強いものだ。入院までの数日間で、主人への家事の引継ぎ特訓。物のある場所、洗濯機の使い方。 少なくとも二ヵ月は一人暮らしを余儀なくされた主人は「お前、毎日仕事に行きながら、こんなに家の中の事やってたんかぁ」と初めて気づいた様子。思わず笑ってしまう。 それでも、入院期間、一日もかかさず面会に来てくれた主人。しかも…私の洗濯物を持ってきて、持って帰る毎日。 退院の日、支払いを気にしていた主人に、「あなたに使うつもりで入っていた夫婦保険、私が先に使ってしまったね」と言ったら、「生きている内に使う保険なら、どっちが使ってもいいのさ!」とポツリ。 あれから三年、再発したらその時にまた頑張ればいいさ、とノーテンキに考えて、まるで何もなかったように毎日が過ぎています。 多分…きっと… 主人はもう、洗濯機の使い方忘れていますね。 |
審査員・市川森一 |