エッセイ優秀賞 |
現在、二十二才になる娘が、短大を卒業し、就職してから約半年過ぎた頃、久しぶりで、勤務先の寮から帰って来た。私とは今まであまり言葉を交わしていない娘が珍しく、何か相談があるとの由。 「会社の先輩が生命保険の話をしてたけど、やっぱ、入っておくべきかな」 真剣な娘の表情に、私は思わず苦笑した。いい気なもんだね…今まで、高校、大学、就職と、ちっとも私に相談せず、女房と二人で決めてしまって、それが今になって、何かと思えば…。一瞬、私は、てっきり、恋人、結婚?の話かなと思ったのに。しかし、娘が一言、ポツリとつぶやいた言葉が心に響いた。 「生命保険って、家族の絆だもんね」 中学時代、入院した時、家族特約のお世話になっていたことも、ちゃんと知っていた。 いつまでも、子供だとばかり思っていた彼女が、今、人生っていう奴を、しっかり考え始めたように感じた。私は、娘の質問に対して即座に、「もちろん入るべし」と答えた。 「そうね。私一人の人生じゃないもんね」(えっ!それ、どういう意味?) 私は、あっけらかんとして言った一言に、思わず、傍らにいた女房の顔に視線をやった。その時、女房と娘は目配せし、互いにニヤリ。あゝ、またしても、私一人がカヤの外。 もう、勝手にしろっ! |
審査員・市川森一 |