2001年エッセイ・入選
『希望』
滋賀県 奥野節子さん
52歳(主婦)
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空は昨日と同じに青く、蝉の声もそのまま。十三階の部屋から見下ろす夜景は、家々の明かりが灯ってその下の暖かな団欒を思わせる。なのに私のこの涙は何?
何があったのか。病気知らずの夫の体に異変が起きた。
検査入院のつもりが、いきなりガン宣告になってしまったのだ。医師の説明を聞く夫の背中を私はただ摩ってやるしかなく、絶望のどん底にいる人をこれからどうやって支えてゆけばよいのか途方に暮れていた。
一回目の抗ガン剤の点滴が終った。間もなく髪が抜け始めるだろう。お洒落な夫には辛い事に違いない。私は焦った。片っ端から電話帳をめくった。そしてようやく事情がわかって夫の病室まできてくれるカツラメーカーを見つけ出した。夫の頭の形や大きさを調べ、毛髪を少し切り取って帰って行った。
やがて出来上がったカツラを見て私たちは驚いた。本人の毛質と全く同じに見えるし、白髪の混じり具合もとても自然だった。「これで復職する時、頭を気にしなくて済むでしょ」と言うとホッとした様子だった。
とても高価だった。でも夫のためにどうしても欲しかった。それが買えたのは保険のおかげである。
ガンと診断されたらすぐにおりる保険金。それを私はこの様に使ったのである。夫はこの先の辛い治療を、復職への希望をもって向かう事が出来た。
病人を支える家族の、そのまた支えになってくれた保険に感謝している。
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