エッセイ入選


2001年エッセイ・入選

『保険の見直しは、人生の見直し?』

兵庫県 岩本律子さん
41歳(会社員)

  結婚して十年。二人とも仕事をもっている私たち夫婦は、何もかも平等対等の関係だ。名字は別姓だし、家事も半々で当番制。そりゃあ、そうだろう。男だから、女だからと分けて考えること自体ナンセンスなのだ。このルールを二人ともいたく気に入っていた。
 ところが、である。ある日、保険を見直そうという話になって、よくよく見ると、私が入っているものに比べて、彼が加入しているものの方が、保険金が高かったのである。
 ひとつ例をとると、死んだとき。彼は自分が死んだら「妻にこれくらいは残しておきたいな、心配だしな」と思っていたらしい。それに比べて私は「これで葬式やってね」的な金額しか設定していない。残された夫のことなどこれっぽっちも頭になかった。私が死んだ後のことなんてどうでもいいやと思っていたのだけど、もしかして、これって、対等と言いながら、しっかり甘えていたのかもしれない。というのにハタッと気付いた。そのことを彼に言っても「僕は大丈夫だよ」とまったく気にする風でもない。
  それから、あーでもない、こーでもないと話し合った結果、今回、保険を見直すことはしなかった。だけど、保険の話をきっかけにお互いを見直すことになった。
 とはいえ、ルールはそのまま。表面上はなんら変わらない。思いやりの気持ちがスプーン一杯分ぐらい増えたのだろうか、甘党だった私は最近、ビターなコーヒーが好物になった。