2002年エッセイ・最優秀賞
『意外なひとこと』
富山県 長谷川みゆきさん
40歳(主婦)
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専業主婦となりはや十六年。下の子も小四となり子育てもまずは一段落というところだ。時間に余裕ができホッとしたのもつかの間、家にいる者特有の孤独感や閉塞感がつきまとうようになった。社会の真ん中で意気軒昂と働く女性が眩しく映る。人からの何気ない一言、「昼間何しているの?」がことさら胸に刺さる。
「妻」や「母親」というものにだけしか自分の存在価値を見出せず悶々とする主婦は今どきそう珍しくはない。かと言って、ではどうしたいのかが今ひとつはっきりしない。毎日をただ無為に過ごしているようで正直焦る。
そんなある日、ふとしたことから自分の生命保険の証券を見た。そして思った。年収ゼロの私に死亡時のこの保障額は多過ぎるのではないか、と。たかが私一人がこの世からいなくなったところで家族にとってのダメージは精神的なものだけではないか。だったら死亡時の金額はもっと少なくてもいいのではなかろうか。そう思い夫に相談した。すると、返事は意外なものであった。
「君の今の働きを他の誰かにやってもらうには、どれだけあっても足りないよ」
朴訥としたその一言で私の生命保険はこれまで通りにしてある。一日中家の中にいて、掃除や洗濯、布団干しと食事を作っているだけの非生産的に思えた私の生活であるが、その仕事をちゃんと認めてくれる人がいつもそばにいる。
こんなヨイショの仕方もあるのだな、とちょっと元気が出た。
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