エッセイ入選


2002年エッセイ・入選

『妻になるということ』

愛知県 睦田真由美さん
30歳(会社員)

 ちょうどあと一ヵ月で結婚記念日。披露宴の華やかな自分が懐かしい。両親への感謝の手紙は省略、お決まりの花嫁の涙は披露しなかった。
 でも、とても寂しく思う瞬間があった。それは人前式の結婚式で、婚姻届への署名の時だ。
 旧姓で名前を書く。旧姓の印鑑を捺印。慣れ親しんだ名前での署名はこれが最後。なんとも言えず寂しかった。
 新婚生活が始まってしばらくして、夫が印鑑証明の変更に役場に行くという。そして、私に新しい姓の印鑑をくれた。
 印鑑登録後、私の印鑑の初仕事は生命保険の受取人の変更書類への捺印だった。結婚にあたり、色々と届出をしなくてはならないものがたくさんあったが、夫が用意してくれたものはこれが唯一であった。
 生命保険との出会いはこの時が初めて。初めて手にした証券の受取人の欄には私の名前。 ちょっと照れくさいような、それでいてずっしりとくるものがあり、複雑な思いがした。この証券を手にして狼狽えるようなことがあったらどうしよう……。そんな不安を感じた。
 『生命保険の証券を見ながらこんな事考えるなんて、妻になったってことなんだな……』と思いながらも、夫には「もっと保障つけようかな」なんて冗談を言った。