2002年エッセイ・入選
『親となって』
徳島県 鴨川美佐子さん
39歳(会社員)
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「僕にもしものことがあっても、子どもに教育だけは受けさせてやれるように……」 十二年前、長女が生まれた時、夫がこども保険の申し込みを提案した。
十八歳で満期となり大学資金になる。それまでに夫に万一のことがあれば保険料は納めなくても満期を迎えることができるとのこと。傍らでおくるみに包まれてすやすや眠る赤ちゃんを見ていると、自分たちに何かあってもこの子の将来は必ず守ってやらなくては、という強い衝動にかられた。
契約をすませ、子どもと夫の名前が入った証券を手にした。まだまだ新米の父と母である。しかし、我が子を思う気持ちの強さでは、誰にも負けない自信があった。あの日から、親になる階段を一段一段上がり始めた私たち。
十八年後なんて、はるか彼方の未来だと思っていた。それが、よちよち歩き、幼稚園、小学校。あっというまに来春は中学生。
毎年、暮れに一年分の保険料を納める。
(今年も無事、保険料を納めることができました。夫も娘も元気で一年暮らせました……)
私は手を合わせる。早いものであと六回払い込むと十八歳の満期を迎えることになる。
「大きくなったら学校の先生になりたいな」 最近は自分の夢を語るようになってきた。娘の夢は私たち夫婦の大切な夢でもある。
「あと六回。しっかり払い込もうなぁ」
夫と顔を見合わせる。新米父さんだった夫もすっかり肝っ玉父さんになってきた。
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