エッセイ優秀賞


2002年エッセイ・優秀賞

『拝啓 パパ様』

東京都 高橋由加利さん
41歳(主婦)


  拝啓 パパそちらはどうですか?
 パパが旅立って六年が経ちました。早いものですね。子どもたちは女の子をぼちぼち卒業する頃となりました。何より姉妹仲良く明るく育ってくれてますよ。毎日一度はパパ談義です。聞こえてますか?
会えなくなった年数が重なっていくとパパ像が膨らんでいつしかあなたはハンサムでダンディーなパパになってるの。うらやましい事。それにつけ私は年を重ねた味ある顔と体型になったわ。あっ笑ったな!?  だって私、あなたの発病した年齢になったのよ。時折、自分の命が来年閉じたらと思うと涙が流れます。
 パパは生命保険が好きじゃなかったよね。でも海外への単身赴任をきっかけに保険の見直しをしてくれてたのね。その頃の万が一は病気ではなくて突発的な事故を考えてたぐらいよね。なのに赴任から戻って二ヵ月後胃癌が発見され、八ヵ月後天国に召されてしまった。葬儀の数日後、保険の営業職員さんからあなたが自分に万が一があった時、この保険で妻子の生活に苦労はないかと尋ね「充分だと思います」の返事に安堵し微笑みを返したと聞きました。
 パパ、ありがとうね。私たちちゃんとがんばってるからね。だから、これからも優しく見守っててね。そしたら私たちのパパ談義にもっともっと花が咲いてパパをそばに感じて生きていけるから……。
そしていつか、パパのようなハンサムでダンディーで優しい男性に娘たちは出会えるでしょうから。
よろしく&またね。

寸評

審査員・市川森一
  語りかけることの大事さは、生きている者同士とは限りません。その気になれば死者との対話だって可能です。著者の場合は、死者というより、彼がまだ心の中で生きているんですね。死後も妻にはかくのごとく語りかけてもらいたい。それにはやはり生前の行いが大切のようですね。反省。