エッセイ入選


2002年エッセイ・入選

『入院』

北海道 Y・Cさん
41歳(パート)

 「手術が必要ですね。今すぐ入院の手続きをしてください」思いがけない診断に、目の前がまっ暗になってしまった。
 当時は夫と家庭内別居状態で、それは半年近くも続いていた。そんな生活に限界を感じて、近々家を出ようと思い始めた矢先のことだったのだ。今この時期に、病気になった自分がつくづくうらめしかった。
 入院の朝、顔を洗っている夫に「行って来ます」と声をかけ、大きなバッグを抱えて一人でバスに乗った。みじめだった。
 手術の前、不安は最高潮なのに一番そばにいて欲しい家族は誰も来ない。麻酔から目覚めても、誰もいない。悲しくて寂しくて「こんな家族はもういらない。やっぱり別れよう……」そんなことばかり考える日々。ベッドの上で天井を見ていると、涙でにじんで見えなくなるのだった。
 入院して一週間、リハビリの散歩から病室に戻ると、やつれた顔の夫が立っていた。手にはケーキの箱と、生命保険の書類を持っている。
 「これ、記入しておいてくれ。退院する時は迎えに来るから」それだけ言って帰ってしまった。
 夫の職場の保険には、配偶者の私も加入しているんだっけ。「私はまだ、あなたの妻でいてもいいの?」小さくなっていく夫の後ろ姿に問いかけながら、また涙がこぼれる。
 あれから一年。夫婦のやりなおしをする決意で戻った家。私は今、ここで穏やかな日々を過ごしている。