エッセイ入選


2003年エッセイ・入選

『お父さんとゲーム』

愛知県 竹内 祐司さん
40歳(会社員)

 「ねえ、お父さん、私のこと、かわいい?」
 きた、きた、きた、きたあ!十歳の娘が私の顔をじっとみてそう言った。娘がそう言うときは、必ず、何かが欲しい時なのだ。私は逃げようとしたが、だめだった。
「ボーナス出たんでしょ?」
 無視しても娘はつづける。
「ねえ、ゲーム機買ってよ。みんな持ってるよ。」
「みんなって誰?」
 そう聞くと、黙ってしまう。だって"みんな"って言ってもクラスメートのうちの二〜三人なんだもんね。しつこいなあと思っていたらいい考えがうかんだ。
「そうだ!生命保険があるよ。」
「何?その生命なんとか…って。」
 私は生命保険のことを説明した。おそらく私が死んだら、私が一生かけても稼げないくらいのお金が入ってくる。そうすればゲーム機なんて買い放題。ソフトだっていっぱい買えるよ。そのためには、お父さんが死ねばいいんだよ。
 そういうと、娘の目は点になった。点がだんだん涙であふれてきた。すすり泣きが号泣になってきた。
「嫌だよ。お父さんが死ぬならゲームも何もいらないから、そんな"保険"なんてものに入るのやめてよ!」
 ひくひく言いながらそう言った。私はそんな娘を抱きしめながら、ますます思った。"生命保険に入っていること"は、愛するこの子や妻をしっかりと守る盾を持っていることなのだと。