エッセイ入選


2003年エッセイ・入選

『思いの証』

鳥取県 乾 美智子さん
35歳(パート)

 別れた夫とは、現在複雑な気持ちを包み込んでの友人関係―小一になったばかりの娘を連れての離婚から、一年三ヵ月が過ぎたのだ。
 いろいろあってのことだったが、芯から嫌いになった訳ではない。
 ただ、生来気持ちを表に出さない彼には、別れてからも相変わらずだなと、もどかしく、私は良いけれど娘のことはどう考えてるのと言いたくなることが何度もあった。
 あれから自分の実家に帰り、慣れない仕事に苦労している彼が、生命保険の受取人を娘に変更したと言ってきた。
 世の中お金じゃないと信じている。でも、それが生きる力にどれほど関わっているか、嫌というほど思い知った一年三ヵ月―やはり嬉しかった。
 もしものことが起こったとき、彼の命の代償が娘の許に捧げられる。親二人の絆は形を変えてしまったけれど、
「離れていても、お父さんはあなたのことを大切に思っていてくれているのよ」
 胸を張って娘に話せる証が出来て、私は以前よりずっと心強く歩いていけるようになった気がする。