エッセイ入選


2003年エッセイ・入選

『姑の贈りもの』

福岡県 桜井 恵子さん
55歳(主婦)

 四季彩情、野鳥がさえずり心和らぐ景色、手つかずの自然の残る夫の故里。
 転勤族のわが家にとって、一人暮しの姑がいつも手料理で温かく迎えてくれる故里は、本当に寛げる場所でした。
 二人の子どもたちを可愛がってくれ、嫁姑の葛藤もなく「行く言葉が美しければ、返ってくる言葉も美しい」間柄で過ごせました。
 そんな姑も晩年は痴呆症になり、私たちの顔も分からなくなって寂しい思いをしました。
 姑が亡くなって後片づけをしている時、仏壇の引出しの中にある封筒が目に留まりました。
 夫と私宛で、中を開けてみると手紙と生命保険証書が入っていました。
「今まで私の誕生日や母の日などに心遣いをありがとう。あなた方が子育てしながら私にも心を使ってくれたと思うと勿体なくて何も買えませんでした。このお金で生命保険の支払いをしてきました。孫たちのために役立ててください」
 私は姑のやさしさに、急に姑への愛しい気持が溢れてきて声を上げて泣きました。
 最近、息子夫婦に初孫が誕生し、私はおばあちゃんになりました。
 小さないのちは私たちに希望を与えてくれます。
 姑がしてくれたように、私も愛する子や孫のために生命保険に入りました。