エッセイ優秀賞 |
結核を患って退院したばかりの僕に、「私でよければ」と言ってくれた君。 そして、お互いに「健康で心安らぐ家庭」にしたいと指きりげんまんした日。 四人の子どもたちに恵まれた時、万一に備えて僕は自分だけ生命保険に加入しました。 安月給の家計でやりくりするのが大変だった君を、僕は知っていましたから。 それでも加入したのは、約束に対する僕の誠意を君に知ってもらいたかったからです。 しかし、運命は残酷な試練を求めました。 予想もしない病でしかも突然に、君が先に逝くなんて…。 そしてその時、目の前にした保険証券で君が自分にもかけていたのを知った驚き。 あれから十五年目の夏を迎えました。 君が「遺した思い」で子どもたちは四人とも好きな勉強ができました。そして今、「生命の時間」を謳歌しています。 その姿を毎年こうして見てもらいたくて、君の前にみんなが顔をそろえています。 いつの頃からか気が付いたのは、彼らがだんだん君に似てきたことなんですよ。ほら見てごらんよ。 君と約束した「思い」は少し言葉を変えて、子どもたちとの合言葉になりました。 「健康で、心安らぐ人生のために」 そのために、好きなことに挑戦しようってね。
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審査員・市川森一 |