エッセイ入選


2003年エッセイ・入選

『長生きのご褒美』

千葉県 御園生君枝さん
71歳(主婦)

  お父さん、お誕生日おめでとう。お父さんは今日で七十七歳。私も七十代の仲間入りをしたから、二人とも立派な「老年」になりましたね。お父さんは現役の働き盛りの頃、仕事、仕事に追われ、家のことはほとんど私に任せっきりでした。私は子育ての最中、子ども達の教育費にお金はかかるは、いや、老後の資金はどうしようとあれこれ心配しました。そして、お父さんに何かあっては大変と思い、必死で家計をやりくりして生命保険料を捻出したんですよ。あの頃は何故だか、私達二人が揃って元気に、この歳まで長生きするって思わなかったんですよ。
 あれから、子ども達は巣立ち、それぞれの家庭を持ち、お父さんは現役を引退、私も好きな趣味の油絵を楽しんできました。少額ながら、ずっと掛け続けていた保険が満期を迎えた時、私はその満期金を生まれて初めてのへそくりにしました。そしてこれは長生きのご褒美旅行に使おうと決めていたんです。
 後でこの話をした時、お父さんは唯、「わっはっは」と笑いましたね。あれは了解の意味だったのかしら、それとも、反対だったのかしら? 旅行の行き先? もう決めました。ハワイです。「海がそれはきれいなのよ」と娘達も言っていましたよね。まさかのための保険が一応ご用済みになって、長生きのご褒美になるなんて、いいでしょ。遅かった梅雨もようやく明けたようです。明日一緒に旅行会社に行ってみましょうよ。ね、お父さん。