エッセイ最優秀賞 |
僕の会社に保険の勧誘のおばさんが来て、勧められるままに生命保険に加入したのは、僕が入社してすぐの事である。最初の受取人は母で、結婚して妻の名前に変った。妻に証書を見せたら、 「いくらお金を貰ったって、あなたが生きていてくれた方がいい。」などと、かわいい事を言った。僕は内心とても幸せな気分であった。妻にも僕の生命保険の特約をつけた。そのうち子どもが生まれ、 「あなたにもしもの事があったら、私もこの子も生きていけない。」と妻は言った。僕は迷わず増額した。相変らず妻は、 「いくらお金を貰ったって、やっぱりあなたが元気でいてくれた方が、ずっと嬉しい。」と言った。そして、 「でも、毎日の安心は、保険がくれるわ。もしもの時は、保険が助けてくれるもの。生命保険は、あなたの家族への愛の証ね。」そう言って、妻は満足そうであった。 保険は愛情の証?確かにそうかもしれない。愛する者がいるからこそ、保険に入るのだ。愛する者たちの生活を守るために、そして毎日を安心して送るために。妻は相変らず、 「いくら貰ったって、あなたが元気なのが一番よ。」と僕の心をくすぐる。しかし十年経った今、 「ねえ、万が一離婚する事になっても、保険の受取人は私の名前にしといてね、うふふ。」などと、ずうずうしい事も言うようになった。 |
仲のいい夫婦だなあ。いい妻だけれど「万が一離婚することになっても受け取り人は私にしてね」というところが、したたかだ。だけど、こういう本音をいいあえる夫婦なんだから別れるはずがない。これはノロケね。 |