エッセイ入選


1994年エッセイ・入選

『これからも…』

長崎県 上橋俊子さん
 37歳 (栄養士)

 昭和六十年、十月三日。私と娘は、幸わせの絶頂から不幸のどん底に、一瞬にして落とされてしまいました。夫の交通事故。  「今から帰る。」が最後の声になるとは・・…夫二十八才。私二十八才。長女一才三ヵ月でした。
 幼い娘の「笑顔」にささえられながら、やがて二ヵ月の月日が経ち、「このままではいけない。もっと前向きに生きて行か広くては。」という自分自身の声が聞こえ、もう一度勉強してみる事にしました。
 私の選んだ道は、「栄養士」で、二年間「食物栄養科」で勉強しました。この二年間の生活費、学費など計五百万円近くかかりましたが、これは主人の命と引き替えになった「生命保険」の一部を、意図的に使わせてもらいました。こうする事で、主人といつも関わっている事ができると思ったからです。娘は、保育園にお世語になりました。
 昭和六十三年、三月。無事に「栄養士」の免許をいただきました。現在は、保育園に勤め、私も娘も充実した日々を過ごしています。娘も早いもので小学校四年生です。ときどき、つらい事があると辞めたいと思う事があります。しかし、亡くなった主人に出してもらったお金でこの職に就けたと思うと、そう簡単に辞める事はできません。これからも…・・。
 「私にとって、生命保険とは、私と娘をどん底から救いあげていただいた、恩人です。」