エッセイ入選


1994年エッセイ・入選

『たいせつな贈りもの』

オーストラリア在住 石橋多恵さん
 35歳 (主婦)

 ママさんバドミントンのメンバーに、Uさんという朗らかな人がいました。とっても明るい女性でしたから、彼女のご主人が長いこと病院に入院されていたなんて、想像もできませんでした。
 そのご主人が、風邪をこじらせて肺炎になり、亡くなられてしまったのです。 「充分、看病してあげられたから・…・。意外と私はしっかりしているのよ。」と真っ赤に充血した目で、お通夜の席、Uさんは私たちを気づかって微笑んでくれました。
 その後、郷里に戻ることになったUさんとのお別れ会が行なわれました。Uさんのご主人が加入されていた生命保険の話題になりましたが、それはかなりの大金でした。
 額の大きさだけに私たちの関心が集まり過ぎ、一年間で利息はいくらだなどと、そんな話になってしまったのです。そのとき、 「でも、生きていてくれるのが、一番よ。」 と、それまで明るかったUさんが、ポツンとさみしそうにつぶやいたのです。その一言は静かな水面に小石を投,げたように、私たちの心に、深く静かに広がっていきました。
 生きていてくれるのが一番、本当にその通りです。私は彼女の深い哀しみに少しだけ、そのとき触れた気がしました。
 それでも、大きな支えとなる通帳の数字を見るたび、家族思いだったご主人の愛情を感じることができると思うのです。それはご主人からのたいせつな贈りものなのですから。