エッセイ優秀賞


1994年エッセイ・優秀賞

『生命保険と私と彼』

岐阜県 柳瀬明子
 51歳 (主婦)


  昨年十一月私達は結婚した。私は五十歳で初婚、彼は六十歳の再婚である。
 奥さんを三十代で癌で亡くし、男手一つで二人の息子さんを成人させたと言う。その割りには明るく若々しい。
 お見合いの時、結婚とは同じ価値観を持ち、お互いに健康で仲がよければ、あとの難儀は、何とでもなるものなのです。と言った彼の言葉に惹かれるものを感じた。結婚すると決めた時、彼が生命保険に入っておこうと言った。
 一緒になる前から死ぬのを待つようでいやねぇとわたし、彼はそうじゃないと言う。
  この年齢になれば保険に入ると言っても、保険会社が引き受けてくれるかどうかわからない。他の加入者のためにも健康チェックは、厳しいはずだ。少しでも異常があれば断わられるか、加入出来ても割増し料などの条件がつく、と生命保険の仕組みを説明してくれた。
 生命保険に入れるのは、ぼくが健康であることを保険会社が保証してくれた訳で、貴女への安心の贈物なのです。そのためにも保障がいつまでも続く終身保険に入る、と言った。申込書の受取人欄に妻と書かれたのをまぶしく見た。保険医の診察の後、しばらくして証書が届いた。
 払っている間は元気な証と、保険料は今も彼の小遣いから払い込んでいてくれる。律儀な彼の思いやりが嬉しく、健康であってさえくれたら、本当はこんなものいらないのよ、と思いながら証書は私が大切に持っている。

寸評
審査員・嵐山光三郎
 再婚してから生命保険に入るという決意がすばらしい。「生命保険は安心の贈リ物です」という夫は、なかなかダンディです。こんなことを言われたら、妻たるものはジーンとしびれてしまうよなあ。