エッセイ入選


1994年エッセイ・入選

『営業職員のおばさんと私』

干葉県 有本和子さん
 46歳 (ブティック経営)

 毎月決まった日に集金にきていたおばさんは、母の小学校の同級生だった。昼に来て、大家族のわが家で一緒に昼食を食べた。
 早くに夫と死別し、生命保険の営業職員をして二人の子供を育てていた。  母は父の経営する町工場の手伝いで、四六時中忙しく、外で立ち話をする時間もない人だったので、その友達が集金にきてくれると、「コロッケだけど食べて。」といいながら、うれしそうにもてなしていた。
 私が高校受験の日も、帰るとおばさんが来ていて、「おばさん、自信ない。もしかしてダメかもしれない。」と私がいうと、「何いってるの、小さい時から頑張りやさんだったから、大丈夫。発表いつなの。」と言って励ましてくれた。
 発表の日、「今日は集金じゃないけれど、待っていたのよ。」と母と二人で居間にいた。
 私が合格したことをいうや否や、ピンクのリボンで包んだプレゼントを手渡してくれた。わが家の歴史をずっと見て、一緒に歩んでくれた営業職員のおばさんを、私は力強い味方に感じて育った。小学生の時、おばさんの家に招かれて母と遊びに行った。四畳半一間の一軒家の茶祇台の上に、豪華な手作りのサンドイッチと果物が、早くから待っていましたとばかり、暖かく迎えてくれた。
 質素なくらしの中で、心のぬくもりを大事にし、営業職員としての誇りに輝いていたおばさんから生命保険の大切さを学んだ気がする。