エッセイ最優秀賞 |
高校へ入学して二ヵ月、息子が、 「お母さん、僕、学校やめてもいいか」 と、言った。 「どうして」 「つまらんから、それに高校は母さんが泣いて頼むから行ってやったようなもんだし」 初めて吐く弱音だった。 「そう、やめたければ、やめたらいいよ」 やめないでと、説得でもするかと思っていたのだろう。私の言葉に驚いている息子に、 「これね、あんたが生まれた時に、出産祝いと、御守りもかねて入った生命保険。今度の七月の誕生日で十六年になるのよ。これからは、自分の人生、自分で責任を持って決めて行きなね」 と、言って一枚の保険証券を渡した。息子は、黙って証券を見ていた。 「あんたが生まれた時、お父さんね。早く顔が見たくて、あわてていて病院の駐車場の壁に車をぶつけたのよ。たいしたことなかったからよかったけど。嬉しかったのねぇ」 私は、息子の背を見ながら、命だけは大切に生きていって欲しいと思った。 翌朝、息子は、私の手作りの弁当を持ち、 「お母さん、部活を途中でやめるわけにもいかないからなあ・・・」 と、言って自転車で学校に向った。 |
いい息子だなァ。こういう息子なら私も欲しい。素直で、ちょっとカッコつけやがって、可愛くて。でも、お父さんとお母さんがすてきだからこんないい子が生まれたんですね。 あったかい家庭が匂って、いい文章です。 |