1995年エッセイ・入選
『死んでたまるか』
栃木県 松下真美さん
35歳 (主婦)
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凡そ明日の事など考えない、江戸の花火よろしく今をパァーッと華咲かそうで生きてきた私が、ついに観念して結婚した相手は、恐怖の生命保険大好き男。どうも額面と手取りが違いすぎるなあ、とよくよく給与明細を見てみれば、ナンダナンダ、家計に響くは生命保険。
いったい、アンタ、どんな体張った生活しているのサ。何しろ夫は事故が怖いと、通勤にも自分の車は使わずに、会社の送迎バスで研究所に通う慎重派。フン、そのために、こっちは一時間も早く起きなくちゃならないのにサ。結婚以来、病気ひとつしないし、嫌になっちゃうぐらい、何も起こらない人なのだ。
「保険といってもね、半分近くは年金型なんだよ。つまり、将来戻ってくるのさ」
ふうん。お主、妻の貯蓄能力を疑っておるな。ま、いいか。それならそれで、私は夫におんぶにだっこでキャハキャハ甘えて生きてやる。
ん、だが待てよ。もし私が先にあの世へ行ったら、その年金とやら、誰と使うのさ。新しいヨメなどもらうつもりか、コリャー。ヨーシ、こうなったら、こっちだって、死んでたまるか。
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