エッセイ入選


1995年エッセイ・入選

『妻へ娘へ』
〜パパのできるほんのささいなこと〜

宮城県 福岡徹也さん
31歳 (小学校教員)

 顔見知りの営業職員にすすめられて、新しい生命保険に切り替えた。
 真新しい証券を手に入れた時、この保険に寄せた思いをそっと書いて、豪華な証券入れの一番小さなポケットに押し込んでおいた。

妻へ―
 「保険を見直した。深い意味はない。健康に自信が無くなったとか、交通事故の予感がしたなどということではない。ただ、結婚するときにお前の両親に言った『幸せにできるかどうかは分かりません。ただ、一生大切にしていきます』を守りたかっただけだ」

二人の娘へ―
 「パパはおまえたちになにもしてやれなかったね。でもね、いつでもおまえたちを思っていたことだけはわすれないでね。このほけんはそんなパパの心なんだよ」

 31歳の身空でこんな遺書紛いのメモを残す羽目になるとは、考えもよらなかった。
 しかし、今回の事で、夫として、父として自分が何をしてやれるのか考える切っ掛けになった事は、のんべんだらりと生きている自分にとって、大きな出来事であったことに間違いない。