1995年エッセイ・入選
『どうぞまた私を喜ばせて』
埼玉県 三好賀代さん
45歳 (会社員)
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「生命保険、増額したよ」と、突然夫に言われた時は目を剥いてしまった。何でまた……。
社長の急逝で会社を継いだはいいが(社員は夫一人だった)、借金を抱えた赤字会社。どうやって食べてゆけば、という時だ。
「だからこそだよ」と夫は保険会社の社員顔負けの真剣さで口説く。もしも、夫が急死したら、子供二人を抱えた私が借金取りに追われることになる。「俺が死んでも当座は何とかできるだけのものを残してやりたいんだ」と。で、私はコロリ。
その後、自分で払うからと、また別口の保険に加入した。少ないこづかいなのに気の毒に、と増額してやったら、その分また一本。
ギャンブルはおろか、酒、たばこ、コーヒーさえのまない。だから、とてもカッコイイ男なのに女性にはもてない。そこで、セールスレディに優しく声をかけられると、じゃ一本、となるんだろうと今度はほっておいた。
先日、そのどれかが満期になったらしい。珍しく親孝行のまねごとをしてるし、友人達にも良い顔をしている。
私も小箱をもらった。前から欲しいと言っていたネックレス。う〜ん、好みの男は高倉健みたいな……、なんて思ったこともあるけど、ま、いいか。この人で満足、大満足。
夫は、また保険に加入するつもりでいる。どうぞどうぞ。そしてまた私達を喜ばせて下さいな。何しろ保険は家族の幸せのためにあるんですから。
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